新型コロナウイルス対策

2020.04.13

2020年(令和2年)4月7日。テレビ各局は通常の放送を切り替え、
総理大臣官邸で開かれている新型コロナウイルスに関する政府対策本部の生中継を始めた。

 長テーブルの真ん中に座った安部首相は東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県、大阪府、兵庫県、
そして、知事から要望のあった福岡県の7都府県に対して緊急事態宣言をした。

 首相は「全国的かつ急速な蔓延(まんえん)により、国民生活および国民経済に
甚大な影響を及ぼす恐れがある事態が発生したと判断した」と読み上げた。
ニュース速報が流れ、大都市の繁華街にあるビジョンなどでも緊急事態宣言が発出されたことを伝えた。
午後7時過ぎからは記者会見も開かれ、民放テレビ局でも通常の夕刻の楽しいバラエティ番組を差し替え
報道特番に切り替えるところも出た。
 この日、首相は前日からメディアで流布されてきた緊急経済対策を正式に発表した。
その規模を特に強調した。諸外国にも引けを取らないGDP(国内総生産)20%にもなる
総額108兆円の新型コロナウィルスへの緊急経済対策だという。

 108兆円。その日から日本の1年分の国家予算に匹敵する数字が一人歩きしている。
テレビや新聞、雑誌でも、対策予算は108兆円と繰り返し喧伝される。
首相がことさらに強調する1世帯あたり30万円の給付金や中小企業や個人事業主への援助もあまりにもハードルが高い。
WHO(世界保健機構)が役に立たないという布製の通称アベノ・マスクの466億円を含めても108兆円との隔たりがあまりにも大きい。
 少し調べていくと驚くことがわかった。108兆円の対策をするために発行される赤字国債はたったの14兆4767億円だった。
108兆円の対策をするのであれば、108兆円をどこからかお金を引っ張ってこなくてはならないと思っていた。
しかし、実際は約14兆5000億円。 第二次世界対戦以降初めての全地球規模で人類に襲いかかる生命の危機であり、
最悪の経済のダメージでもある新型コロナウイルス問題。
ここで政府は、断固として国民の生命と生活を守り、このコロナ危機が去った後に経済をV字回復させるために、
産業を保全しながら一時は休ませなくてはならないはずだ。
そのために十分な金を使わなくてはならない。今は平時ではない。非常時なのだ。
民主主義の戦後日本で初めてと言っていい私権の制限も含む緊急事態宣言が発出されたのである。

 緊急事態宣言に対して異議を唱える国民は少数派だ。逆に宣言自体が遅すぎると言う声が大きいほどだ。
なぜなら、この1月からコロナウィルス問題はひとりひとりの生活と健康、
いや命に関わる個人の最大の関心ごとであり、最重要の国内問題でもあるからだ。
 1月に隅田川の屋形船で新年会を開いたタクシードライバーや東京と関西を結ぶ中国人観光客を案内した
ドライバーやガイドなど、国内でコロナウィルス 感染者が出てからは、中国武漢で起きた他人事から自らの問題となった。
それから3か月近く、私たちはマスクの着用やアルコール消毒、手洗いなど行動様式を一変させた。

 2月6日に横浜港に大型クルーズ船、ダイヤモンドプリンセス号が着岸してからは、
報道や情報番組のほぼ全てがコロナウィルス問題一色になった。
2月27日には首相自ら「ここ1、2週間が極めて重要な時期」とし、地方自治体に小中高の休校を要請し、
3月2日からほどんどの学校教育がストップした。国民のコロナウィルスに関する自粛にアクセルが入る。
 前日の2月26日には全国規模の大型イベント、スポーツ、パフォーミングアーツなどの自粛が求められ、
ほとんどのものが休止となった。
首相が極めて重要な期日の開けた3月16日ごろから一部で再開されたが、すぐさらに10日間の自粛延長を求められた。
大相撲など無観客で開催されたものもあったが、戦後初の中止に追い込まれたセンバツ高校野球など
ほぼ全てのパフォーミングアーツ、スポーツイベントなどがそれから中止となったままだ。 
こうして、国民は緊急事態宣言が出るまで3か月近く自粛と我慢の毎日を過ごしてきた。
マスクや消毒液が品切れになっただけでなく、トイレットペーパーから食料品まで先の不安を思ってか
スーパーなどで少し多めに買い物をする人が増えた。中には不安に耐えきれず必要以上に買いすぎた人もいる。
人々は外出や旅行、スポーツやコンサートなどを楽しむこともできなくなり、外食も消費も抑えるようになった。
何しろ年に一度の花見を今年は歩きながらする人が多く出た。
それでも気が緩んでると批判が起きたほどだ。

 もちろん経済にも多大な打撃を与えている。深刻なのはひとりひとりの個人の収入だ。

 今や働く人の約4割、2000万人以上が非正規労働者の日本。
最初にインバウンドも柱の一つとなっている観光業が壊滅状態になった。外国人だけでなく日本人も旅行をしなくなった。
このため航空、鉄道、バスなど交通、宿泊施設全体が大幅な減収となっている。
外食産業はそれでなくても来客が減る2月ではあるが、例年以上に客足は急速に落ち、
歓送迎会のある3月に持ち直すかと思いきや本格的な自粛が始まりさらに落ち込んだ。
そこで働く人は勤務時間が減らされ、中には解雇され収入が激減した。
 製造業では中国など海外のサプライチェーンから部品の納入が止まったり需要そのものの落ち込みで
減産や製造中止となり、真っ先に非正規労働者らが雇い止めなどの煽りを食らった。
 パフォーミングアーツやスポーツなどに関わる人たちも現場があって初めて収入となる人たちだ。
俳優や選手、演奏家だけでなく、舞台設営、照明、会場案内、業種は多岐にわたる。
前年比で8割、9割の所得が減ったと言う人は珍しくない。
そして、すでに5月以降のイベントや興行も中止が発表されている。
 こうした非正規労働者だけでなく、正社員として働く人からもため息が聞こえてくる。
通常は支払われる残業代がテレワーク、リモートワークの場合には払われないことが多く、実質の手取りが大きく目減りしているのだ。
今やコロナウイルスによって収入に影響を受けていない人は少数派といってもいい状態になってきてるのではないかと推測される。
そのため、3月頃から本格的な経済対策を行政に求める声があがった。
自粛と補償はセットでなされるべきと言う声だ。
しかし自粛は発令されても、具体的な補償の話はほとんど出てこなかった。 

 日本経済はリーマンショック、ブラックマンデー、バブル崩壊以上の深刻な経済の落ち込みが確実視されている。
4月9日に日本銀行の支店長が集まり、全国を9つの地域にわけて景気の現状を分析する「地域経済報告」をまとめた。
9つすべての地域で景気判断を引き下げた。リーマンショック直後の2009年1月以来だ。
特に北海道と東海地区は「下押し圧力が強い」とした。これは、日本経済に最後のダメ押しをしたようなものだ。
それでなくても日本経済はコロナ以前に失速していたからだ。
2019年10月に消費税を10%にしたため、個人消費・住宅・設備投資は深刻な打撃をすでに受けていた。
10ー12月期のGDP(国内総生産)は年率換算でマイナス7.1%。3月末の月例経済報告では景況判断から6年9か月続いて記されていた
「回復」の文字が消え「急速に厳しくなっている」とされた。
これに加えてのコロナショックなのだ。

 リーマンショックの後は中国が世界経済を回復させる牽引役になったが、
今回はリーマンショック後でさえもプラス成長だった中国経済が1992年に市場経済を取り入れて以来、初めてのマイナス成長になる。
失業率30%になるとされるアメリカもマイナス成長、さらにイギリスのブレグジットで混乱の渦中のヨーロッパも
ユーロ圏統合後で最悪のマイナス成長になることは間違いない。
このために各国は大規模で中身のある経済対策をスピード感を持って発表した。
 アメリカは3月27日に230兆円の経済対策予算を通し、4月2週目には早くも27兆円の追加予算をまとめた。国民個人への支援も厚い。
ヨーロッパ各国も極めて異例の予算を次々と組んで支援を始めた。フランスは法で定めら最低賃金の4.5倍を上限に給与の100%、
イギリスはフリーランスも含めて賃金や収入の80%、ドイツは時短勤務となった場合には給与の補填を最大67%することに加え、
社会保障費の全額肩代わりを提示した。そのほか休業に追い込まれた中小の店舗などに家賃や光熱費の補助などを実施するなど、
国民が安心して自宅待機でき、中小企業も含め休業しやすい対策を打ち出した。

 日本政府が4月7日に発表した108兆円も数字的には欧米に決して劣らない、この規模なら国民が渇望している緊急経済対策のはずだ。
メディアでは108兆円という数字ばかりが強調されるが、その前につく言葉をご存知だろうか?「事業規模」という言葉だ。
108兆円は事業規模なのだそうだ。加えて財政支出は39兆5000億円とある。つまり政府の支出を伴うものは40兆円に満たないわけだ。
支出は108兆の3分の1強。支出を伴わないものも含む108兆円の事業規模にはどんな事業があるのだろう?
 最初に目がついたのが26兆円分の事業である。
これは、資金繰りが苦しくなるであろう企業などの税金や社会保障費の納入を1年間猶予するものだった。
経済対策の4分の1の26兆円は、国に収めるカネを1年間待ってやるという事業だった。
さらに、支出を伴うものであっても、昨年の台風19号などの一連の災害からの復旧、復興などのため2019年12月に決定した経済対策のうち
19兆8000億円分を108兆円の一部として組み込んでいた。
 108兆円という数字ばかりが国民に浸透しているので、あまりにも差がありすぎるが、雇用の維持と事業の継続のために10兆6308億円。
感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発に1兆8097億円。経済活動回復のために1兆8492億円、
強靭な経済構造の構築に9172億円。予備費1兆5000億円である。
 つまり、条件が合わないと支給されない1世帯あたり30万円の給付金や、前年度の事業収入の落ち込みを支給する制度などから、
コロナウィルス問題が終息した後の旅行補助、イベント関連のクーポン、
1億枚の布製マスクを1世帯2枚づつ配る事業の466億円などもここに入るという。
これでは中身のほとんどない経済対策だと言われても仕方がない。
 安倍政権は緊急事態宣言を出しても財布をほとんど開かないのだ。これなら、新規の赤字国債は14兆5000億円というのもうなづける。
国民が確実にもらえるのは児童手当の上乗せ1回のみ1万円と1世帯につき布製のマスク2枚なのである。
ほとんど報道されないのでご存知ない方も多いだろうが、立憲民主党、日本共産党、国民民主党、れいわ新鮮組など野党各党は、
今回の対策では不十分だと財務省、与党に繰り返し詰め寄っている。与党では公明党からも声が上がり始めた。 
 検討したいのが、雇用調整助成金である。
なぜなら4月から6月までの期間限定で、解雇をせずに従業員を休業(今は家にいた方が安全なのでオススメ)などをした場合の
補助率が引き上げられている。
大企業で通常が2分の1なのが4分の3まで。中小企業は3分の2から10分の9まで引き上げられている。
1日の上限金額などもあり不十分かもしれないが、非正規の労働者も対象になるというので検討に値する。
 次に「持続化給付金」という名称になる予定のもので、事業収入が前年同月比 50%以上減少した事業者に、
中堅・中小企業は上限 200 万円、個人事業主は上 限 100 万円の範囲内で、前年度の事業収入から減った金額を給付するもの。
そして、1世帯あたり30万円の給付金についてである。ハードルは高く評判も悪い。この基準が4月10日に変わった。
今まであった住民税非課税世帯という枠がなくなった。
2月から6月までの間で1か月間だけでも、収入が単身者なら10万円、2人世帯なら15万円、3人世帯で20万円、
4人世帯で25万円以下になることがあったならもらえるようになった。もしくは、世帯主の収入が半分以上減って、
上記水準の2倍未満になれば良くなった。単身者なら20万円、2人世帯なら30万円以下になれば基準をクリアするわけだ。
例えば、単身者で40万の給与をもらっていた人が、1か月でも半分以下の19万5000円になったのなら、30万円もらえるということになる。
最後に今回の騒動で減速させてしまった経済活動による、会計上の損失を誰が負担すればよいのか。
国民一人一人か、会社なのか、行政なのかいずれにせよ元に戻すのは時間とお金がかかります。

一人一人の努力の積み重ねです。

※画像は4/5(日)、交通量が極端に少なくなった渋谷区の明治通り